栄養療法

身体全体をひとつのシステムとしてとらえ、適切な栄養素の過不足を判断

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分子整合栄養医学とは

この学問の本幹は、ノーベル賞を2回受賞したアメリカの物理学者ライナス・ポーリングが提唱した「分子整合栄養医学(オルソモレキュラー・メディスン)」にもとづくものです。人間の身体全体を、水・タンパク・ビタミン・ミネラル・脂質などの化学反応装置としての大きなシステムとしてとらえることで、化学装置としてのシステムを適切に駆動するのに必要な「適切な栄養素」の過不足を判断するものです。

元来、我々は遺伝子による設計図をもとに組み立てられた生命体ということになります。遺伝子の中の情報は、目、鼻、口などの感覚器や、心臓、肺、腎臓などの内臓、果ては白血球、赤血球などの血液成分など、あらゆる人体の「タンパク構造」なのです。タンパク構造体の情報であるということは、このタンパク質をいかに適切に摂取して効率よく利用できるようにするのかが、システムとしての人体を良好な状態にするということです。

この化学装置としてのシステムの状態を把握するため、当院では、身体症状・患者さんが望む状態などと血液検査を利用させていただきます。通常の血液検査の見方では、「特に異常なし」と言われるものが、分子整合栄養医学的な見方では「様々な栄養素の過不足」を示すことになります。具合的な栄養素の不足状態については、それぞれのページをご覧ください。



適応に関しては、栄養素の補給という面で考えればすべての疾患・症状にあるともいえますが、
特に症状のない方でも、患者さんと私たち治療者が同じ認識を持ち、共同作業で食事などを変化させていくことで、
さらなる健康を目指すこともできます。

特に若い女性を対象として様々な症状を引き起こす鉄不足

鉄不足

鉄は体内で最大量のミネラルで、本当に体内の多くの反応に関与しています。元来、鉄不足は女性特有のものであり、有経期(生理がある間)の女性は、1月に1度の生理があることで月に60mlの血液が失われます。そのため、ほとんどの女性が鉄欠乏の状態にあるといっていいでしょう。鉄不足によって起こる症状は、鉄の役目を考えることで分かり、例えば次のようなものがあります。

  • 体の酸素運搬をつかさどる赤血球を作る
  • 筋肉の酸素運搬に関与しているミオグロビンを作る
  • 脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)を作る
  • 皮膚の抗酸化をつかさどるカタラーゼを作る
  • 肝臓の解毒をつかさどるチトクロームP450を作る

これらのほか鉄は神経などにも働きますが、上記のことだけを考慮しても鉄不足は、息切れや肩こり、慢性の腰痛、うつ、自律神経失調症、皮膚の色素沈着(しみ、そばかす)、薬物の副作用など様々な症状の原因となります。鉄不足によって起こる症状を列挙すると、次のようなものになります。

  • 動悸・息切れなど、心臓に負担かかった症状
  • 皮膚にしみ・そばかすがあり、皮膚のトラブルが多い
  • 慢性の肩こり・腰痛、筋肉痛が出やすい
  • 喉につまったような違和感が続く
  • 「うつ」「パニック」「神経症」などの精神神経疾患に悩まされる。
  • 疲れやすい。など

この鉄不足は、通常の血液検査でもある程度わかりますが、フェリチンと呼ばれる体内の小腸粘膜に貯蔵される貯蔵鉄を計測しないと確かめにくいといえます。
元来、鉄は反応する相手から「電子を奪う」ことで、相手を酸化する「フェントン反応」と呼ばれる反応を引き起こします。
これはいわゆる活性酸素の発生源となり、毒性が発生するのです。そのため、非ヘム鉄などは吸収される際に活性酸素が出現します。
この反応を起こさないためには、鉄がヘムタンパクと結び付いた「ヘム鉄」を摂取することが大切になります。

細胞膜の状態
上記に鉄不足の症状を記載しましたが、もう少し詳しく述べると、若い女性や激しく運動をする子どもの肩こり、腰痛などは、鉄不足によるミオグロビンの低下、筋肉の酸素不足が一因となります。
また、鉄は脳の神経伝達物質を作る際の重要な要素であるため、鉄不足はうつやパニック障害を引き起こします。そのため、鉄不足が多い若い女性には、うつやパニック障害も多いのです。また皮膚のトラブルは鉄不足と関連しており、しみ・そばかすの多い女性を見ると鉄不足が容易に診断できます。喉の詰まった感じは、鉄不足があると喉に偽膜形成がおきて違和感が出現します。また鉄不足は体全体のコラーゲン不足を引きこしますので、結合組織が弱くなり、体のあちこちの痛みの原因となります。

予想以上に欠乏しがちなビタミンC、ビタミンB群

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ビタミンC不足で、まず思い浮かべるのは壊血病ですが、壊血病は「血が崩壊する」という意味で「全身から出血して死にいたる」恐ろしい病です。壊血病が有名になったのは、15世紀以降の遠洋航海時代です。長い航海中の食事は、ビタミンCをほとんど含まない塩づけの肉と小麦粉を練ったビスケットのようなものでした。その食事を長く続けていくと体の中のビタミンCのストックがなくなり、壊血病が発症するのです。

1497年に出航したバスコダ・ガマ(喜望峰回りインド航路の発見者)は、163人の船員のうち100人を壊血病で失いました。このとき、壊血病の原因がビタミンCの欠乏とは分からず、血を抜いたりするなどの様々な治療法が試されました。1753年、イギリスのジェームズ・リンドが壊血病に「レモン」「ライム」などの柑橘系が効果的だと発表したのですが、当初はなかなか受け入れられず、実際に認められ出したのは40年後のことです。そしてビタミンCが壊血病の原因であると分かったのは1932年のことでした。

元来、壊血病はビタミンCの不足によって体中のコラーゲンが作れなくなり、血管、靭帯、腱などのコラーゲンが崩壊する病気です。いきなり全身の出血が起こるのではなく、まずは初期の症状として疲労感、膝や腰の痛み、歯肉からの出血などが出現します。そして全身のビタミンCのストックがなくなると全身の出血が起こり、死に至るわけです。慢性疲労症候群という原因不明の難治性疾患は、関節痛・微熱・疲労感・筋肉痛などビタミンC欠乏と似ており、実際ビタミンCが効果がある場合があるようです。

現代の飽食の時代に「壊血病など存在するわけがないだろう」と思いがちですが、壊血病という最終段階にいたる前の状態、つまりビタミンC欠乏は、予想以上に多いのではないかと思います。その根拠として、現代の食物の栽培方法、やせた土壌、冷凍技術の発達による保存食の普及などが考えられますが、予想以上に欠乏を起こしがちではないでしょうか。

ストレスもビタミンCの消費を多くしますし、悪性腫瘍を含めて難治性の疾患にかかっている方は、ビタミンCの消費を大きくして壊血病様の病態を引き起こしている可能性もあります。そのため、疲労感が取れない、体中の関節が痛いなどの症状があれば、まずはビタミンCの不足を疑ってみる必要があるといえます。


ビタミンB群の不足
ビタミンBと一口に言っても、その種類はB1、B2、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6、B12、葉酸、ビオチンなど8個あります。それぞれのビタミンは相互作用があり、1種類だけを摂取しても効果を上げることは難しく、8種類すべて入っている複合体として摂取することが望ましいのです。

その作用は生命維持に不可欠なもので、脳・神経系に特に需要が大きく、不足は脳・神経系に大きなダメージを引き起こします。また重篤な疾患、特に糖尿病・大量アルコール摂取ではその消費は極めて大きく、容易に不足状態を引き起こします。そのため、糖尿病の方にビタミンB群の摂取をしていただくと、予想以上に大きな効果を上げることがあります。

血液検査では、GOT、GPT、MCV、BUNなどがこのビタミンB不足との関連を表しています。

血液検査によって各種栄養素の過不足を的確に判定

亜鉛不足
亜鉛は、鉄に比べて活性酸素を発生させることがない、きわめて安定したミネラルです。細胞分裂する際の核の分裂にはこの亜鉛が深くかかわっており、核に亜鉛が触れることで、核の分裂すなわち遺伝子の分裂が引き起こされます。このときに亜鉛が安定したミネラルであることで、遺伝情報の内容に間違いを起こしにくい状態を作り出しているのです(安定しているからこそ、核内の遺伝情報を守るために亜鉛が選択されたのだとも言えます)。

このような理由で、亜鉛は体内で細胞分裂が盛んな場所に特に必要とされていますが、代表的な臓器として皮膚と精巣が挙げられます。前者は、亜鉛不足によって皮疹、特にアトピーとの関連が重要であり、亜鉛の投与はアトピー等の皮膚疾患の状態改善に重要な要素となります。また精巣も細胞分裂が盛んな場所として知られていますが、亜鉛不足は無精子病などの男性不妊症の原因となることもあります。

また鉄は足りているのに、亜鉛が不足しているための貧血も存在します。亜鉛は骨に多く存在するため、血液検査としてはALPが過不足を表しています。

タンパク質不足

DNAの情報通りのものを作るためには予想以上に多くのタンパク質が必要になります。
タンパク質を食物から摂取する場合、食品は卵、肉、魚、豆類などになります。
野菜類にはほとんどタンパク質は含まれておらず、お米やパンからのみでタンパク質の需要を賄おうとすると、恐ろしいほどの量になり
高カロリーになるばかりでなく、必須アミノ酸の必要量をほとんど賄うことができません。
またプロテインスコアーと呼ばれる食品固有のものがあり、この値が100に近いものは良質なタンパクということで、
効率よくタンパクを摂取でき腎臓などに対する負担も低くなります。
血液データや食生活からタンパク不足を読み取ることができますが、ほとんどの方が不足状態といっても過言ではないでしょう。
タンパク不足によっておこる症状は様々で、多くの方がまさかこんな症状や病気までタンパク不足と思うほどです。
たとえば皮膚が「ガサガサ」になって潤いがなくなり、便秘や下痢になり、身体がだるくてしょうがない。
風邪をひきやすいし太りやすいなどです。
言い出せばいくらでもタンパク不足の症状はあるのですが、ここで皆さんが気になるのはタンパク不足でどうして太りやすくなるかなということでしょう。
元来私たちの体内では糖や脂肪をエネルギーに変える際に酵素と呼ばれるものが約3000種類あります。
この酵素自体がタンパク質でその活性を高めるのが補酵素であるビタミンなのです。
つまりタンパク不足、ビタミン不足はこの酵素や補酵素の不足を引き起こし糖や脂肪のエネルギー変換を妨げ肥満につながるのです。
肉や卵が太る原因であると思っているみなさん、少し考え直してはいかがでしょうか。
細胞膜の状態
細胞膜は、通常想像すると皮膚のような膜を思い浮かべますが、人体にある60兆個の細胞の膜は、様々なものを一定の条件で通過させて細胞内外のやり取りをしたりするもので、「リン脂質」という油からできています。この油の中には、タンパクやコレステロール、ビタミンEが浮いていて、それぞれが重要な働きをしています。血液検査からこの細胞膜の状態を推し量ることができ、細胞そのものの膜が弱くなって壊れやすいなどの状態を推測できます。血液検査では、ビリルビン、CPK,網状赤血球などがその指標となります。
抗酸化力
我々は酸素を体内に取り入れることで、糖からATPと呼ばれる生命存続の活動エネルギーを作り出しています。これを酸化的リン酸化と呼びますが、実はこの過程で「活性酸素」が必ず発生します。この「活性酸素」は、放っておけば宿主である自分そのものを傷つけるため、人間を含めて地球上のありとあらゆる生命体は、生きていくための必然として発生する「活性酸素」を消去するシステムを身につけています。

例えば植物は、太陽の紫外線から体を守るため、ビタミンA・C・Eなどのビタミン類や、フラボノイド、イソフラボン、カテキンなどのポリフェノールなどを合成します。動物は種類によっても違いますが、人間では尿酸、ビリルビン、SODなどが抗酸化力の指標となます。


分子整合栄養医学の適応例
メタボリックシンドローム(肥満)
腹囲を測定(女性90cm、男性85cm)することでメタボリック(以下、メタボ)という診断が下され、医療機関などから「やせなさい」の指示が多く出ているようです。しかし、「どうやってやせたらいいのだろう」「本当に自分はメタボなのか」といった疑問を持つ方もたくさんいると思います。

そもそも腹囲で本当にメタボが判明するのでしょうか。ある程度のメタボをつかまえることはできますが、ある方はその適応に入らなくてもメタボであったり、メタボの基準に入ってもメタボではない場合はたくさんあります。例えば、メタボの診断で最も大切なのは皮下脂肪ではなく内臓脂肪の量です。この例は甘いもの好きの女性に多く見られることがあります。甘いものは血糖の上昇が早いため、高インシュリン血症を引き起こし、脂肪合成をさかんにして内臓脂肪(脂肪肝)の原因になります。内臓脂肪は体調不良の原因になり、肩こりや腰痛、イライラ、疲れやすいといった多くの不定愁訴の原因になります。これらの方の診断は、当院の血液検査で判明し、糖代謝をよくするためにビタミンB群などの投与と糖質制限によって治していきます(どんなものを食べるべきかなど、詳細な指導は来院時に行います)。

体中が痛い
体のあちこちが痛い、どこの病院に行っても治らない、挙句の果ては自律神経失調症の診断で心療内科に紹介されたという方などに、この治療法は良い適応がある場合があります。というのも、全身の痛みも局所の痛みも体全体にある栄養素(鉄やビタミンCなど)が足りないことが多く存在するからです。
うつやパニック発作などの精神科的問題
うつやパニック発作、統合失調症などの精神科疾患に対し、分子整合栄養医学の分野では脳内の神経伝達物質異常などの質や量の代謝および機能障害としてとらえていきます(詳しくは「心の病で悩んでいる」を参照してください)。当院の分子整合栄養医学的アプローチは、精神科などの薬物治療の妨げになるものではなく、同時に行ってよいものです。
長期間にわたる痛み(腰痛など)
長期にわたる痛みの多くは、体の中にある免疫力や体の修復力の低下が原因であることが多くあります。例えば男性であれば、糖質や炭水化物の過剰摂取による糖代謝異常や脂肪肝です。また鉄やビタミンC不足も考えておくべきでしょう。この分野もやはり栄養療法は得意とする分野といえます。
がんに対する分子整合栄養療法
がんに対しての分子整合栄養療法は、がんと宿主(がんにかかっている本人)の免疫という関連から見て取ることができます。がん細胞は、宿主の他の健全な細胞とはまったく異なった自立増殖をしていることを理解することが大切です。人体は60兆の細胞からなり、正常細胞は毎日新しい細胞が細胞分裂によって生まれ、古い細胞は寿命がくるとアポトーシスといわれる自然死を起こし、炎症などの反応を起こさず消失します。また健全な細胞は、お互いに身体全体の仕組みの中で音楽を奏でるような調和で細胞の維持をしています。

しかし、細胞分裂の際に何らかの異常が起き、細胞ががん化すると、このアポトーシスを起こさず無限増殖を引き起こし、最終的には宿主の正常細胞の維持ができないほどの栄養不良になって死に至るのです。

元来、健全な宿主にはがん化した細胞をやっつける「免疫」というものがあるため、毎日がん化した細胞は大きくならずに済むのです。免疫細胞は、主にリンパ球と言われる白血球ですが、これらの数や機能を良くするには、体内の栄養状態を良くする必要があります。血液検査でその指標になるのは、アルブミンとヘモグロビンです。がんに負けない値はアルブミンで3.5、ヘモグロビンで10以上ですが、アルブミンで4.0、ヘモグロビンで12あればかなり優秀といえます。これらの値を維持するためには、ビタミンC、B、E、Aや良質なタンパク質、アミノ酸などの摂取が不可欠となります。これらの栄養素の摂取を可能なかぎり行うことで、がんに対しての免疫は向上しますし、他のがん治療の効果も上がると思われます。

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