ハンチントン病から見える遺伝子戦略

ハンチントン病から見える遺伝子戦略

ハンチントン病とは

1872年アメリカの医師「ハンチントン」によって最初に報告されている。以前は「ハンチントン舞踏病」と呼ばれており、遺伝性の脳の基底核の線条体に異常が出現する疾患で不随運動(舞踏様)、認知機能低下、情緒障害などを伴う。遺伝形式は常染色体優性遺伝と呼ばれるもので遺伝子を持っていればほぼ必ず発症するものでこれを遺伝の浸透率がほぼ100%という。日本神経学会は発症前診断を行うものとしてハンチントン病、常染色体優性脊髄小脳運動失調症、筋強直性ジストロフィーなどがありこれらはすべて浸透率100%、で単一遺伝子の形式をとる。
ハンチントン病(ハンチントン病の謎、日経サイエンス2003年3月号から)

遺伝の特徴

第4染色体の先端にハンチンチン遺伝子があるがその中にCAG配列の繰り返しがあるがこの繰り返しの数でハンチントン病の発症が決定される。通常の方はこのCAG配列が8-35回の繰り返しであるがハンチントン病を発症するかたはCAG配列が36回以上の繰り返しがある。つまりCAG配列がある一定以上多くなるとハンチントン病を発症する仕組みとなっている。(以後ハンチンチン遺伝子をハンチントン遺伝子と呼ぶ)

CAG配列の繰り返しの重要な意味

ハンチントン病有病率は欧米では10万人に4-8人で日本人は10万人に0.7人であり欧米の1/10程度である。浸透率100%で常染色体優性遺伝のハンチントン病が自然淘汰されずに生き残っているのは何か特別な意味を持っているではことではないかということでCAG配列の繰り返しに関して研究が進められている。

日本人に多いメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損の遺伝子異常

日本人に多い多型のひとつが、動脈硬化や認知症との関係で注目されています。それは“メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素”の多型(TT多型)で日本人では15%の頻度でこの多型がある。つまり動脈硬化や認知症に関与大ということである。元来血中ホモシステインは動脈硬化の大きな危険因子あり、遺伝子的な異常のないと思われる方の中にも加齢とともに血中ホモシステインが上昇している方は多くおられる。ビタミンB6、B12,葉酸などのビタミンB群はこのホモシステインを代謝する。だとすれば遺伝的にメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損が日本人に多いということは遺伝的に認知症の多い家系であればホモシステインは脅威となるため予防の意味でも多量のビタミンB群を摂取することが必要となる。

ハンチントン遺伝子の起源

10億年以上前からせいそくしているキイロタマホコリカビにハンチントン遺伝子を見つけることができその遺伝子を持つことによって動き回ることができるようになり食べ物があるところに行くことができるようになり「偽変形体」となり多細胞体となり生き延びることができる。その後CAG配列をもったハンチントン遺伝子が形成されるようになりCAG配列が繰り返しの数は生物の神経系統の発達と相関していく。例えば人間は8-35でサルは7-18、マウスは7、牛は15、豚は18、ネズミは6とヒトから離れるほど反復配列は少ない。

神経ロゼットの形成とハンチントン遺伝子

マウスの胚性幹細胞が神経上皮細胞へ分化していく過程で神経ロゼッタと呼ばれる「花びら模様」を形成するがこれにハンチントン遺伝子が関与しておりCAG配列の繰り返しが多いほどきれいなロゼッタ形成をしていく傾向にある。

CAG配列の繰り返しの数と能力の関係

ハンチントン遺伝子のCAG配列の繰り返しが36回を超えない程度に多い方は体の動きの指揮・制御に関わる脳領域の「淡蒼球」の神経細胞の数が多く社会的交流能力や認知能力に優れていることが示されている。CAG配列の繰り返し36回を超えていずれハンチントン病を発症する方も発症前は優れた認知能力を示している。またハンチントン病方のCAG配列の繰り返しの数は子孫に受け継がれるにつれて長くなる傾向にあり多い方は240回を超えているようである。

ハンチントン遺伝子が脳に働く作用

近年の研究でハンチントン遺伝子はニューロンを丈夫にしてストレスに強くすることが分かっている。またマウスの脳でハンチントン遺伝子をオフすると細胞が死に神経症状が現れる。またハンチントン遺伝子が脳回路の形成と神経シグナルの伝達を促す「脳由来神経栄養因子」というたんぱく質の生産を促進することが分かっている。

CAG配列の繰り返しの数とハンチントン遺伝子

ハンチントン遺伝子は元来脳・神経系統の発達には必要不可欠なもので進化の過程で特に重要な遺伝子であることが分かっているが、しかしそれもCAG配列の繰り返し35回までである。繰り返しが36回を超えると突然ハンチントン病を発症してしまう。ある意味歓喜と狂気の境目が36回でありそこに遺伝子の戦略を見ることができるといえる。ハンチントン遺伝子そのものは生物の脳・神経系統の分化から発達にかけて重要なことは近年の研究で明らかであり、CAG配列の繰り返しの数が増えるということは高等生物になり神経系統・脳の発達に寄与している。しかし36回という数字を超えると破滅的な現象を起こすということは神経系統の発達にハンチントン遺伝子以外の別の遺伝子の関与もあるであろう。

遺伝子の戦略

遺伝子の戦略とすればまるで「遺伝子の意志」があり自分の行く末を決めているかのような印象を与えるが決してそうではない。遺伝子の戦略とは遺伝子を生命といわれるものがつむぎ未来に伝えることが個別の生命体を超えた宇宙の意志のようなものがあると考えることが妥当であろう。今の地球での生命体の頂点に立つのは人類であるが今から先にさらなる進化をしていくであろう。特に人類ならしめているのは他の生命体にない脳・神経系統の発達である。CAG配列の繰り返しの数を脳・神経系統の発達に使用するが発達には常にリスクを伴い行き過ぎると破たんを招くということであろう。しかし36回という数字は現在の脳の限界点であろうか。今後進化した人類が登場すればさらにその数が増えることはないであろうか。つまりCAG配列の繰り返しの数が36回を超えてもこれを容認できるだけの脳・神経系統の他の要素の発達などが将来は獲得できるのではないだろうか。もしかするとハンチントン病と診断されていない方の中にもうすでに36回を超える数を獲得しその結果通常の人類が到達できない脳・神経系統をもっている方がおられる可能性はあるのではないか。例えば人を魅了する舞踏の達人であったり世界的な科学者などではないだろうか。調べてみてもいいかもしれないしもうすでに世界的な企業はこれを始めていると伺っている。(アメリカ・ヨーロッパ、中国などは国家戦略として多くの遺伝子サンプルを集めている。)
 神経系統の遺伝子戦略と同じように全体の遺伝子戦略もハンチントン遺伝子のような要素があると予想される。つまり進化するということはある程度のリスクを抱えながら行われているということであろう。現実世界の中で世界の偉人といわれる方の家系には精神疾患を抱える方が多くおられることはよく知られた事実であり、自閉症の親はどちらも理科系でインテリジェンスが高い場合発生率が高くなることも知られた事実である。
進化の究極の結果を予想すれば宇宙の真理を理解して神のごとくの頭脳を持つことだとすればそこに行き着くまでに生命体全体を遺伝子のマスとしてとらえれば、ある程度のリスクを繰り返しながら遺伝子の完成形を形作るのであろう。
そう考えれば生命体の存在意義を遺伝子の戦略から見ればほぼすべての生命体は不完全なもので長い時間と確率的な意味合いで進化が進んでいく。脳・神経系統の進化を促す遺伝子は確かに「ものがよく見える」「周りの状況判断にすぐれる」「過去・現在・未来の時間的な流れの理解」などから未来に向けての戦略を立てることができるなどの利点がある。しかし体格・筋力に優れた他の生物に比し生態系の頂点に立つには隕石落下や大幅な気候変動などがなければ人間がこれほど多くなることはなかったのではないか。襲いう考えるとダーウィンの進化論よりラマルクの用不用による獲得形質の進化のほうが説明がつきやすのかもしれない、つまり脳・神経の進化こそが進化のそのものの究極の目的とすれば宇宙そのものの進化圧がそうさせているのかもしれない。

ハンチントン病の利点

ハンチントン病の方は奇妙な利点がいくつかある。子だくさんでがんになりにくいとという点である。後者のがんになりにくいという点は人体最大のがん抑制遺伝子P53遺伝子とかかわっている。ハンチントン遺伝子を持っておらっる方はP53遺伝子の血中濃度が高いことがわかっている。元来P53遺伝子はがん化した細胞をアポトーシス(自己融解)させる機能を持っているのだが、ハンチントン病はこの遺伝子をもっている生物のみ発症することがわかっている。直接的に考えればP53遺伝子の機能そのものが線条体の壊死を起こしハンチントン病を発症させているようであるが、そんなに簡単なからくりではあるまい。
またこのP53遺伝子はがんを防ぐだけでなく免疫能を高めることも知られている。免疫能の上昇は生殖能力を高めることが多産につながるようである。またハンチントン病の遺伝子は様々な認知能力を高め性的魅力が高まることも知られている。このことも子だくさんの一因になっているようである。

Chiara Zuccato/Elena Cattanero:ハンチントン遺伝子のパラドックス、日経サイエンス2016年11月号(SCIENTIFIC AMERICAN日本版)原題名The Huntington’s Paradox (SCIENTIFIC AMERICAN August 2016) :70-75、2016

増井徹、齋藤加代子、菅野純夫:遺伝子診断の未来と罠、日本評論社、東京、2014年

Elena Cattanero/Dorotea Rigamonti/Chiara Zuccato(ミラノ大学COE神経変性疾患研究所):ハンチントン病の謎、日経サイエンス2003年3月号(SCIENTIFIC AMERICAN日本版)原題名The Enigma of Huntington’s disease (SCIENTIFIC AMERICAN December 2002) :54-60、2003

ハンチントン病の利点、日経サイエンス2008年4月号(SCIENTIFIC AMERICAN日本版)(SCIENTIFIC AMERICAN) :16-18、2003

福嶋義光(監修):遺伝医学やさしい系統講義、メディカル・サイエンス・インターナショナル、東京、2013年

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