心の病

「心身一如」の考え方で心の病を治療する

心の病の治療は、漢方も分子栄養学も得意分野のひとつです。前者の漢方には、もともと「心身一如」という考え方があります。これは、心と体はいつもつながっており、心を治す際には体の状態を考慮し、身体症状を治すためには精神的なアプローチを行うことをいいます。分子整合栄養医学の精神疾患に対する考え方についても、漢方の「心身一如」に近い部分が多くあります。

漢方的な考え方
漢方でいう「気虚」そのものが、西洋医学的な「うつ」の状態にとても近いといえます。例えば、「うつ」の診断基準には「毎日の抑うつ気分」「喜びの減退」「食欲の減退」「思考力の低下」などがありますが、気虚の「声に力がない」「目に力がない」「食欲低下」などと非常によく似ています。まったく同じものではありませんが、時代の違いや見方の違いを考慮すれば、ほぼ同じような病態を指しているといっても過言ではないでしょう。

この気虚の診断がつけば、漢方の「気うつ」に対する漢方は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)、四君子湯(しくんしとう)などになります。また「気うつ」の場合、喉に何かあるような「違和感」を訴える方も少なくありません。これを「咽喉頭違和感」「梅核気」などの呼び方をしますが、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が著効します。また、便秘があって「イライラ」する場合は、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が著効します。怒りで身を焦がしているようなケースで、体のあちこちが痛くなったりする場合には抑肝散(よくかんさん)が著効します。この抑肝散は、認知症の方の徘徊、不安、幻覚、幻聴などを抑える作用もあり、使い勝手のいい漢方薬です。

分子栄養学的な考え方
脳内の神経伝達物質
脳内の伝達物質は、下図のようにたくさんありますが、どれもアミノ酸もしくはアミノ酸がいくつか結びついたペプタイドと呼ばれる状態のものです。つまり、食事で体内に入ってくるタンパク質から構成されているということになります。これらの神経伝達物質の中でも、セロトニンが減ると「うつ」になるのは有名で、多くの「抗うつ薬」はこのセロトニンを増やそうとしています。

それなら「セロトニンそのものを飲めばよいのではないか」という疑問も湧きますが、血液−脳関門というバリアがあり、高分子のものはここでブロックされてしまいます。つまり、脳内には低分子のものしか通過できないということになります。
脳内神経伝達物質
脳の中に入ることができるアミノ酸

脳内のアミノ酸代謝
上図は、脳の中に入ることができるアミノ酸を示しています。Lグルタミン、Lフェニールアラニン、Lトリプトファンなどですが、例えばトリプトファンからセロトニンができるまでの過程には、鉄、ビタミンB6、ナイアシン(ビタミンB3)などが記載されています。これは、脳内に入ったアミノ酸はビタミンや鉄によってセロトニンまで到達するということです。つまり、セロトニンを増やすためには、タンパク質の摂取と同時にビタミン、ミネラルが必要となるということです。女性に「うつ」が多いのは、鉄の役目がとても大きく、鉄不足は容易に「うつ」を引き起こすからです。
うつや気虚になる機序
では、このような機序の中で「うつ」などの精神疾患になりやすい状態を考えてみます。まず、食事が入らない状態です。これは神経伝津物質セロトニンの原材料が入ってこないことになります。「うつ」の症状にも気虚の症状にも食欲不振が入るのは当然のことでしょう。食事が入らないときに元気がなくなり、脳も体も活動性が低下することはよくありがちです。しかし、活動性を低下させて休める人はいいのですが、世の中そんな人ばかりではありません。休めない人のほうが圧倒的に多いのです。これが「うつ」や気虚の引き金になります。そしてトラブルが生じてくると、結論の出ないことを考え始めます。このことがストレスになり、ビタミンCの消費が盛んになって、さらに脳は疲労してきます。ここで出てくるのは、その人の脳の資質です。脳の資質が良い人は多くの神経伝達物質を消費します。このことが決定的な神経伝達物質の枯渇を引き起こし、「うつ」になってしまうのです。

また食欲の低下は、食事の内容についても手軽に血糖を上げやすい糖質や炭水化物中心のものにシフトさせていきます。一時的にセロトニンは出ますが、血糖の上昇が激しく、インシュリンの分泌を促します。結果的に3〜5時間後の低血糖を引き起こし、生体は血糖を上げようとしてアドレナリンの分泌を亢進して、交感神経の緊張亢進などからパニックを引き起こしたり、「うつ」の原因になったりすることは知られた事実です。

脳内の神経伝達物質
まず低血糖を避けるために、食事の内容を糖質・炭水化物中心のものからタンパク質中心に変えることが大切です。その程度は病態によって違ってきます。そしてビタミンB群、ビタミンC、鉄などのミネラルの補給を適切に行うことも重要になります。ただ単にビタミンなどを取ればよいということではなく、ビタミンの種類や量、摂取の仕方については個人の病態によって大きく異なりますので、ご希望の方は来院をお勧めいたします。

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