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腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症とは、退行変性で腰椎の神経が椎間板ヘルニアや肥厚した黄色靭帯によって圧迫されている状態を指します。症状としては、腰痛と下肢のしびれ・痛みなどがあります。特に下肢の痛み・しびれは、起立や歩行で増悪し、座ったり休息したりすると症状の軽減があります。
MRIで狭窄が判明したとすれば、一般的な治療法として薬物(痛み止め、血管拡張剤など)を処方され、次は神経根ブロックという手順になります。そして、これらの方法で症状の軽減がないときには手術的な選択となるのが通常です。しかし、手術的な方法ではかえって悪くなったり、別の症状が出現することもありますから、できるだけ保存的な治療法を選択することが必要なのですが、腰部脊柱管狭窄症の病態を脊椎だけに求める西洋医学的なアプローチでは、どうしても治療に反応しない場合は手術という選択肢を取ることになってしまいます。
そこで当院では、腰部脊柱管狭窄症の病態を分析して多因子に分けます。主な要素は、栄養、心理、環境、脊椎、筋肉、仙腸関節などです。栄養面では、大きな要素で足りないものがあれば「足していく」という作業が重要なものになります。脊椎の画像診断による要素は動かしがたいものですが、栄養を含め、他の要素は改善可能な余地を残しており、「手術しか方法がない」と言われた場合であっても、十分改善の余地があるといえます。
腰部脊柱管狭窄症のMRI<参考論文>当院における腰部脊柱管狭窄症と小児の股関節痛の治療例 - 元来AKA-博田法は腰痛などの疼痛、しびれに対して有効であることが知られている。しかし、間欠跛行のみの症例には効果判定に苦慮し敬遠されがちと思われるが、これらの症例に対してAKA-博田法を施行し改善した例、また小児の「股関節痛」に対して多くの方がAKA-博田法を試みておられると思うが、重篤な股関疾患の鑑別に有効であり麻黄剤などの漢方の併用が治療期間の短縮につながるのではないかと思われた症例を経験したので報告する。
- <症例1>昭和7年生まれ 75歳 女性 身長155cm 50kg
平成19年1月頃より腰痛出現後次第に増悪し歩行時には臀部から両大腿後面そして下腿後面の痛みとしびれが出現した。平成20年3月、近医にて腰部脊柱管狭窄症の診断を受けて保存療法を施行されたが症状の軽減がないため、平成20年7月総合病院整形外科を受診した。やはり腰部脊柱管狭窄症の診断を受け神経根ブロック療法を数回受けて効果がなかったため、手術を勧められていた。平成21年9月8日、当院を受診した。初診時は安静時、立位での腰痛はまったく無く、腰椎の伸展で腰に軽い張った感じが出現したが、屈曲で腰痛の出現はまったくなくFFDは手のひらが床についていた。症状としては50mの歩行にて両大腿後面の痛みとしびれが出現し、イスに座るなどの休憩にて回復してまた少し歩けるようになっている。理学所見としてはSLRは両側とも60°前後 FADIRF、FABEREともに痛みはないが、両側とも硬かった。足背動脈の触知は両側とも良好であった。AKA-博田法施行後は両側ともSLRの改善が10°弱あり、FADIRF、FABEREともに軽度の改善があり、また腰椎伸展での張った感じは消失していた。MRIではL3/4,L4/5レベルで椎間板の膨隆と黄色靭帯の肥厚がみられ、硬膜管の狭小化がみられるが椎間孔の狭小化はなかった(図1)。分子整合栄養医学的観点からみて血液検査では蛋白の代謝産物である尿素窒素の上昇より体蛋白の易化亢進、ビリルビンの増加から赤血球の寿命の低下、フェリチンの低下から貯蔵鉄不足などを示唆させる所見があった(表1)14)。初診での間欠跛行の効果判定はできなかったが、ビタミンBコンプレックスとビタミンD3製剤を処方して肉や卵などの良質のタンパク質の摂取を多くすることと2-3週間に1度の来院指示した。3週間後の9月29日の時点では軽い腰痛が出現していたが歩行時のしびれが軽くなっているのを感じている。この時の両側のSLR 60°前後、FABERE 、FADIRF に左右差はなかった。12月9日の時点では歩行距離が100-200mに伸びてきた。その後も2-3週間に1度の割合で平成22年3月27日の時点では歩行距離700-800mに伸びてきており患者さんは十分満足している。図1
症例1 MRI像(T2 強調像)
L3/4 L4/5レベルで椎間板の膨隆と黄色靭帯の肥厚がみら
れ、硬膜管の狭小化がみられるが椎間孔の狭小化はない。↑下記の表(テーブル)のカラーイメージです。
その他の表も同様にご制作ねがいます。表1
<症例2>65歳 男性、身長165cm 体重60kg
平成18年10月頃より、5分ほど歩行すると右臀部から大腿後面、右下腿の外側部と後面の痛みとしびれが出現して歩けなくなる症状が出現している。その後多院をまわり保存療法を繰り返すも症状の軽減ないため、平成20年8月に近くの総合病院受診し腰部脊柱管狭窄症の診断のため、神経根ブロックを勧められたが拒否して本人は手術を決心していたが、妻より反対されたため平成21年2月4日当院を受診している。初診時の所見として安静時および立位では痛みやしびれはまったくなく、腰椎の屈曲・伸展も痛みがなかった。FFD -15cm で腰椎屈曲は硬く、腰椎伸展もとても硬かった。SLRは両側とも30°前後で左右差なく、FADIRF、FABEREともに痛みはなかったがどちらも硬く右側はより硬かった。足背動脈の触知は両側とも良好だった。AKA-博田法施行後はSLRの改善が両側とも5度程度で右のFADIRF 、FABEREともにやや改善した印象だったが、やはり左右差は残存していた。MRI像はL4の前方すべりとL4/5の椎間板の膨隆、黄色靭帯の肥厚あり、硬膜管は著明に狭窄していたが同部での椎間孔の狭小化はなかった(図2)。分子整合栄養医学的観点からみて血液検査では尿素窒素の上昇から体蛋白の易化亢進などを示唆させる所見があり(表2)ビタミンBコンプレックスとツムラ八味地黄丸、プロマックを処方し嗜好品であるお酒の摂取を控え、甘いものはやめるように、また肉や卵などの良質のタンパク質の摂取を多くするように指示した14)。初診より50日目の3回目のAKA-博田法時の平成21年3月25日の来院時は、歩行時の右臀部の痛みの程度が軽くなっているのを自覚していた。5回目のAKA-博田法時の平成21年4月22日にはかなり臀部痛は軽減していた。7回目のAKA-博田法時の平成21年5月28日は20分歩くのはほとんど痛みは感じなくなった。平成22年7月現在、1時間の歩行でまったく痛みは感じていない。図2
症例2 MRI像(T2強調像)
MRIはL4すべりとL4/5の椎間板の膨隆、黄色靭帯の肥厚あ
り、硬膜管は著明に狭窄している。同部での椎間孔の狭小
化はなかった。図2
症例2 血液検査
尿素窒素の上昇などから体蛋白の易化亢進、などを示唆させる所見があったが、経過とともに改善されている。 -
<症例3>5歳女児
平成19年11月25日より左股関節痛が出現した。痛みは次第に増強し、26日には痛みのためまったく歩けなくなったため、11月27日を当院受診した。歩行できないため、父親に抱っこされて診察室に入ってきた。機嫌は比較的良く、こちらの質問にてきぱきと正確に答えていた。体温は36.8°、鼻風邪を少しひいていたが、心音・呼吸音に異常はなかった。左の股関節部分に圧痛があり、屈曲、伸展、内外旋ともに制限されていた。XP像では左の股関節がやや外転しており、計測が難しかったが左のtear drop distanceのわずかな開大があり、同部の関節水腫が推測された。左右の仙腸関節のAKA-博田法を数回施行すると左股関節の屈曲、伸展、内外旋の制限が軽減した。歩かせると軽度の跛行はあったが、歩けるようになっていた。抗ウイルス作用と関節水腫に対する効果を期待して麻黄湯を3日分処方した。翌日の来院時は痛みがほぼ消失しており、走ることもジャンプすることも可能になっていた。関節可動域では左股関節の内旋が軽度制限されているのみであった。その後2回ほど診察したが痛みの再発はなかった。図3
症例3 XP像 左股関節のTEAR DROP DISTANCEの開大が見られる -
高齢化時代の到来とともに、医療機関に多くの腰部脊柱管狭窄症を原因とする間欠跛行の患者さんが訪れる。腰部脊柱管狭窄症は、菊地らの提唱する神経障害型の分類によれば、神経根型、馬尾型、混合型などがある10,11)。またMRI等の画像所見と臨床所見は必ずしも一致せず、手術適応に苦慮する疾患である10,11,13,17)。諸家によれば腰部脊柱管狭窄症の自然経過は単根型である神経根型は比較的良く、多恨型の馬尾型や混合型は悪いようである2,5,6,10,11,13,16,20)。これら3群の診断は歩行負荷試験や神経根ブロックなどを行って詳細に分析し、MRI等の画像診断などと重ね合わせることではじめて可能になる10,11,13)。そのため臨床症状のみで分類することは極めて難しいが、あえて比較すれば、神経根型は片側性が多く、神経根に一致した痛みとしびれであること、馬尾型のものはほとんどが両側性であり、痛みというよりは異常感覚などの知覚障害が主な症状である。そして混合型は神経根型、馬尾型の特徴を兼ね備えている10,11)。
他覚的所見は年齢を重ねるごとに悪化していくが痛みやしびれなどの自覚症状は意外と良好な経過をたどるようである5,6)。またその術後も年齢や合併症の有無で再発や腰痛などの併発頻度は諸家によってさまざまで、出来るだけ保存的治療にて症状の軽減に努めることは大切である1,9,10,11,18)。元来AKA-博田法は痛み、しびれに有効とされている3)。しかし安静時の痛みや腰痛を伴わない間欠跛行のみの症例に対しては、AKA-博田法施行後その場での効果の判定に困難であることから来院する意欲の継続に難しい面がある。しかし、当院で経験した間欠跛行のみの2症例は、他院にて腰部脊柱管狭窄症の診断を受け保存療法に抵抗し手術適応と言われていたが、2−3週間ごとのAKA-博田法を5、6回施行後数ヶ月にて歩行時のしびれ、痛みの軽減や歩行距離の延長が出現した。1例は歩行距離800mまで延長し、1例はほぼ跛行は消失している。この結果から間欠跛行のみの症例に対しても、AKA—博田法は試すのに十分価値があると思われる。
小児の股関節痛は年齢、歩行時の痛み方、跛行形態、発熱、血液検査、Xp,MRI、超音波像などにて鑑別すべきものである4,8,12,19)。見逃してはならない重篤な疾患も存在するが、AKA—博田法は仙腸関節由来の痛みを軽減するため鑑別に有効である3)。元来、小児の股関節疾患の中で予後良好なものに単純性股関節炎がよく知られているが、この疾患の誘引となるものに風邪などの前駆症状があり、ウイルス感染も一因とされている15)。また単純性股関節炎は超音波検査にて高率に関節水腫を認めることが報告されている4,8,19)。したがって仙腸関節の2次性の機能障害が生じ、この機能障害をAKA—博田法にて軽快させていると考えられる。またインフルエンザなどに有用とされている麻黄湯を中心としたとした麻黄剤を併用することで抗ウイルス作用を、そして関節水腫に対しては利水作用を発揮して、股関節痛の期間を短縮し、他の器質的疾患を有するものとの鑑別にさらに有効と考えられる7)。
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