「肉離れ」

急性期から運動療法を実施し、早期復帰を目指す

肉離れとは、走行やジャンプ、スタートダッシュなどの運動によって筋肉が急激に収縮、伸張された場合に、筋肉の筋膜や筋線維の一部に断裂をきたした状態です。陸上の短距離走者やラグビー、サッカー選手などに多く発生し、走行時が最も多いようです。
しかし、肉離れはスポーツ選手のように激しい運動をする人だけに起こるとは限りません。中高年者のランニングやテニスなど馴染みのスポーツでも起こることがありますし、坂や段差の上り下りだけの日常生活でも起こることがあります。
受傷部位としては、大腿部後ろのハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)、大腿部前面の大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)、ふくらはぎの腓腹筋、大腿部内側の内転筋(太ももの内側の筋肉)に多く発生します。

症状としては、動作中に受傷部に電撃痛が出現し、動作の続行が不可能になります。プチッという音や筋肉が切れた感覚を受けることもあります。重症例では、受傷筋にくぼみを生じたり、押さえた痛み(圧痛)や皮下出血を認めることができます。受傷筋を収縮させたり、伸張させることで痛みを伴います。

肉離れの好発部位
肉離れは、ハムストリングス、大腿四頭筋、腓腹筋、内転筋の順に多いとされていますが、競技特性によって好発部位が異なります。

大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)の肉離れ
急激なダッシュやストップ、ターンを伴うスポーツでは、大腿の前面部分にある大腿四頭筋に過大な負荷が生じます。大腿四頭筋の中でも、特に股関節の屈曲(曲げる)運動と膝関節の伸展(伸ばす)運動に大きく関与する大腿直筋に強い負荷が生じることで、損傷を起こしやすいといえます。
太もも前面の大腿四頭筋
(太もも前面の大腿四頭筋)
ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)の肉離れ
ハムストリングスは、股関節の伸展運動や膝関節の屈曲運動に大きく関与しており、ダッシュなどの急激に地面を蹴り出す動作やターンの際に肉離れを起こしやすいといえます。
太もも裏側のハムストリングス
(太もも裏側のハムストリングス)
  
※ハムストリングスは大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋という3つの筋の総称
脾腹筋(ふくらはぎの筋肉)の肉離れ
ランニングやジャンプ動作の原動力は腓腹筋の内側頭とされるため、ふくらはぎの肉離れの大半は腓腹筋の内側に起こります。
ふくらはぎの腓腹筋
(ふくらはぎの腓腹筋)
肉離れの好発部位
一般的な治療
教科書的には、受傷後は最低2日間患部の出血や腫れを最小限に抑えるために冷却し、損傷程度によりますが1週から2週程度の包帯またはシーネ固定が行われます。疼痛に対しては、薬物療法として短期間の非ステロイド系抗炎症剤が処方されます。1〜2週後より温熱療法と痛みを伴わない範囲での患部のストレッチや筋力訓練が実施され、約2週以降より、軽い抵抗運動からつま先立ちなどの筋力訓練を開始し、ストレッチも少しずつ積極的に実施していきます。約3週以降よりジョギングを開始し、徐々にスピードを増加させていくようなプログラムです。
当院の治療方針
当院においては、受傷後の急性期から運動療法を実施することで疼痛の軽減を図り、ほとんどの患者さんがシーネなどの固定を施さずに、その日のうちに歩行可能な状態となります。リハビリでは、受傷機転(肉離れを起こした状況)、疼痛部位を確認するとともに、圧痛・皮下出血・腫れ・筋肉のくぼみをチェックします。受傷部位については、圧痛、伸張痛、収縮痛によって限定します。

肉離れを起こした筋肉は、受傷部位だけではなく筋肉全体に筋痙攣(けいれん)を起こした状態となっています。それを改善させるために、例えば大腿部(太もも部分)の肉離れであれば、股関節のモビライゼーションを実施することで、筋の痙攣を軽減させるとともに受傷筋周囲の組織循環を改善させ、疼痛の軽減を図っていきます。

また、痛みを伴わない範囲でのストレッチも早期から実施しますが、これは筋肉の緊張の軽減や組織循環の改善に有効的であり、筋肉の萎縮予防にも効果的です。肉離れの急性期の安静固定(シーネなど)は、動かさないことによる筋肉の萎縮(筋力低下)や組織循環の低下を招き、受傷部の腫れを長期化させて損傷した筋肉の修復も遅れさせ、競技復帰も遅くなるといったデメリットのほうが大きいと考えます。そのため、早期よりモビライゼーションや痛みのない範囲でのストレッチなどを行うことで、受傷筋の痙攣を軽減させて組織循環を改善させ、腫れや痛みの軽減を図り、早期からの荷重を可能とします。これによって不要な筋力低下を防ぐことができるため、早めの競技復帰が可能となります。

スポーツ選手の肉離れでは股関節、特に大殿筋(お尻の筋肉)や体幹の腹筋群の筋力をチェックすることも重要です。大殿筋や腹筋群(特に腹横筋)は動作時姿勢を安定させるために重要な働きを行っています。これらの筋力が低下していると、例えば走る動作では体幹や骨盤を支える力が弱く、様々な方向にブレて地面に伝える推進力も弱くなります。その結果、後ろに蹴り出す効率も悪くなって、後ろに蹴り出すためのハムストリングスの活動も大きくなり、疲労もたまりやすい状態になってしまいます。つまり、体幹や骨盤が安定しないと、前に進もうとするときに筋肉はより強く収縮しなければならなくなります。ハムストリングスで肉離れを起こしたからといって、単純にハムストリングスの筋力が弱い、働きが悪いと考えるのではなく、ハムストリングスが過剰に収縮をしなければならない原因がどこにあるのかを含めて考慮したリハビリを実施することが重要です。

肉離れは、(1)筋力低下、(2)筋力の左右差、(3)筋の柔軟性の低下、(4)ウォーミングアップ不足、(5)筋の疲労、(6)天候の変動(低温)などのような発生要因があって受傷する場合が多いので、これらへの注意や対策を講じることで予防できることもあります。

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