双極性障害とメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損双極性障害と代謝障害

~双極性障害の遺伝的背景・ビタミン補充療法~

双極性障害とは

双極性障害は躁状態と鬱状態をくり返す精神疾患である。この疾患に遺伝的な代謝障害が関与しているとの報告がある。その代謝障害はメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損と呼ばれるものでメチオニン代謝の際に重要な酵素でこの欠損はホモシステイン尿症を引き起こし自閉症、認知症、発達障害などを引き起こす。

アーミッシュに多く見られる精神疾患

アメリカのアーミッシュは宗教的な意味合いで近親婚が多く遺伝病が表現型として出現することが多い。このアーミッシュの中に精神病が多発しておりその中にこのメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損が多く含まれていることが解った。アーミッシュの医療機関では双極性障害の子供に対して遺伝的な検査をしてベタイン(トリメチルグリシン)を投与して代謝の過程で障害されているメチル化という部分を保管して治療しこの精神病を直している。元来アーミッシュの中にメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損の遺伝子を持つものが30%存在しており常染色体劣性遺伝であるためこの酵素欠損が疾患として現れるのは50人に1人としている。

ホモシステイン尿症

メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損は結果的にホモシステイン尿症をおこす。この疾患は先天的な疾患でホモシステインが体内に蓄積するため脳を含め血管障害を引き起こす。若年で脳梗塞などを起こす方の中にはこのホモシステインの過剰がある方も多くおられる。

日本人に多いメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損の遺伝子異常

日本人に多い多型のひとつが、動脈硬化や認知症との関係で注目されています。それは“メチレンテトラヒドロ葉酸還元日本人に多い多型のひとつが、動脈硬化や認知症との関係で注目されています。それは“メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素”の多型(TT多型)で日本人では15%の頻度でこの多型がある。つまり動脈硬化や認知症に関与大ということである。元来血中ホモシステインは動脈硬化の大きな危険因子あり、遺伝子的な異常のないと思われる方の中にも加齢とともに血中ホモシステインが上昇している方は多くおられる。ビタミンB6、B12,葉酸などのビタミンB群はこのホモシステインを代謝する。だとすれば遺伝的にメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損が日本人に多いということは遺伝的に認知症の多い家系であればホモシステインは脅威となるため予防の意味でも多量のビタミンB群を摂取することが必要となる。

双極性障害にたいするビタミン療法

冒頭に述べたが双極性障害は躁状態と鬱状態をくり返す精神疾患である。精神科での疾患に対する診断はその症状のみから判断するものであり脳や代謝などの器質的および基本的な情報に関する追及はない。アーミッシュは宗教的な意味合いで近親婚が多いということはある意味遺伝的な疾患の多発する集団とも言える。これは遺伝病の遺伝子的な変異を調べるにはある意味もってこいの集団ともいえるのである。そういう意味では双極性障害の診断がつけばまずは血中のホモシステイン濃度を測ることは必須といえるのではないか。そしてさらに遺伝的な検査をしてメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損を調べてもよい。もし遺伝子的なものが見つかればビタミンB群の大量投与とベタインを内服することになる。<

一卵性双生児の遺伝子の変化

この遺伝子は多くの致命的な疾患をもたらすことも知られている。その一つに女児におこる脳発達障害であるレット症候群と呼ばれるものがあるが、この疾患はこの遺伝子が原因であるとされている。また統合失調症の患者の前頭葉にもこの遺伝子の変化が多くあるという。
一卵性双生児に片方が健常者で片方が統合失調症であるということの説明がこのことでできる。つまりヒトは持って生まれた遺伝子とそこに環境因子が重なり遺伝的な変化をもたらしてくるということだ。つまり生まれも育ちもどちらもそのヒトの遺伝には大きな影響を及ぼすということだ。

最後に

双極性障害などの精神疾患にこのような遺伝的・生化学的な解釈と原因を見つけられたのはごくごく最近でありとても喜ばしいことである。精神科医の中には先進的な方もおられるが多くは様々な精神症状に対しての対処として抗精神薬となり抜けられない泥沼にはまっていくことになる。すべての疾患に当てはまることではあるがまずは安全な治療や検査をためしそして次の治療に入るべきであろう。双極性障害は自殺率が高く危険な疾患であるためことは急を要しているが血中のホモシステイン濃度は保険適応外で数千円でできる。認知症・自閉傾向・うつ・双極性障害などの疾患にり患している方はできるだけ早くホモシステイン濃度を測定してみることが必要であろう。
*:テトラヒドロ葉酸は、葉酸の補酵素型で、酵素タンパクに結合した状態で、核酸の合成やメチオニン代謝などで補酵素としてはたらきます。葉酸がかかわるメチル化は、遺伝子発現の重要なプロセスで“エピジェネティック過程”とよばれています。
検査の結果,キンシンガー家の居住地域に住む健康なアーミッシュの30%がMTHFRの遺伝子の片方のコピーに変異があることがわかった。この割合からすると,彼らの子どものうち50人に1人はMTHFR欠損症を持って生まれてくることになる。
簡素派の人々の間でMTHFR欠損症などの遺伝性疾患が異常に多いのは,独自の社会文化的歴史に原因がある。大西洋を渡って移住してきた再洗礼派の小集団は,遺伝子プール(集団全体の遺伝子構成)の規模も小さかった。彼らは私たちと同様,ゲノム中に有害な遺伝子バリアント(一般的には変異と呼ばれる)を知らずに持っていた。

*:日本人に多い多型のひとつが、動脈硬化や認知症との関係で注目されています。それは“メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素”の多型(TT多型)で日本人では15%の頻度でこの多型がある。

Kevin A. Strauss:人々のためのゲノミックス、日経サイエンス2016年4月号(SCIENTIFIC AMERICAN日本版)原題名Genomics for the people(SCIENTIFIC AMERICAN December 2015) :93-100、2016

三石巌:個体差と栄養、メグビーインフォメーションvol317 2009年5月1日号:1-8、2009

福嶋義光(監修):遺伝医学やさしい系統講義、メディカル・サイエンス・インターナショナル、東京、2013年

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