おそるべし抑肝散(よくかんさん)~認知症にたいしての使用から

おそるべし抑肝散(よくかんさん)~認知症にたいしての使用から

消えた認知症薬

平成10年認知症に対する薬剤であるアバン、エレン、セレポート、ヘキストールが医薬品再審査・再評価特別部会での審議の結果「医療上の有用性を確認することができない」との判断で薬価基準から除外された。サアミオンという薬剤だけは生き残ってはいるがほとんど使用されていないのが現状だ。
アセチルコリンを増やす
次に現れたのはアルツハイマー型認知症に対する薬剤である。この型の認知症はアセチルコリンという神経伝達物質に関与する神経が大幅に減少している。そのためアセチルコリンを増やせば脳の機能が良くなるであろうとアセチルコリン分解酵素阻害薬を売り出した。今はやりアリセプトという薬剤である。しかし減った神経の数を増やすなどという根本治療には影響しないため、軽度の認知にのみ有効であり重症例には効かないし進行を止めることはできない。
グルタミン酸を抑制する
2011年1月アルツハイマーに対する新薬がでた。商品名はメマリーというが、これはアリセプトのアセチルコリンを増やす薬剤ではなく、アルツハイマーになると脳内のグルタミン酸という神経伝達物質が増えるが、これを抑える薬剤だ。
グルタミン酸は脳内で興奮性の神経伝達物質として知られている。つまりメマリーは脳内の興奮を抑える働きがあるようだ。そのため暴力行為や徘徊(目的もなく歩き回る)、などの症状抑制に効果が見られる。
認知に対する抑肝散
実は漢方の世界にもメマリーと同じような作用を示す抑肝散がある。抑肝散は元来「虚弱な体質で神経が高ぶるものの症状」つまり「神経症、夜泣き、かんしゃく、不眠症」などに有効とされている。以前から認知症の周辺症状である徘徊(目的もなく歩き回る)や暴力行為などに有効とされてきた。驚くなかれメマリーとほとんど同じ適応症状である。
メマリーと同じ様な抑肝散
そこでやはり抑肝散も脳内で同じようなことが起こっているのだろうと推測され調べてみたところ、メマリーとは作用機序が異なるがやはりグルタミン酸を抑える作用が証明された。つまり抑肝散は漢方版メマリーということになる。メマリーには眠たくなるとか食欲が落ちたり、ふらつきや意欲の低下などの副作用があるが、抑肝散にも似たような副作用はあるにはあるが程度や頻度は少なくほとんどないといってもいいであろう。(偽アルドステロン症は見逃さないように)
値段のことを加味すれば軽症から中等症には抑肝散に大きく軍配が上がるだろうし、効かない時にメマリーを考えればいい。
老人のかんしゃくを抑える抑肝散
抑肝散の適応は「虚弱な体質で神経が高ぶるものの症状」とあるが、考えてみればアルツハイマーの方は老人であり、栄養状態も悪く虚弱な体質であるといえる。自分に置き換えてみると食事ものどを通らず、神経のみが妙に高ぶっている状態は仕事が忙しく食事をとる暇のない時などと一致している。そういえばこんな時は人に当たり散らしている自分があるようで、脳内のグルタミン酸が増えているのかもしれない。この状態に認知が加われば暴力行為や徘徊(むやみやたら歩き回る)などの症状につながることが容易に想像ができる。つまり抑肝散は老人の「夜泣き、かんしゃく」などをおさえているのだ。
抑肝散は痛みも抑える
抑肝散は痛みにも良く効く。私のところに腰痛で来られていた60歳代の女性はありとあらゆる治療をしたがどれも効果がなかった。そこで話を詳しく聞いてみると自分は家のこともお姑さんにもよく仕えているのに夫が評価をしてくれないという怒りが見えた。そこで抑肝散を使ってみると数週間でほとんど痛みはなくなり、後で礼状まで来たのだ。おそるべし抑肝散。
将来は自分も
怒りとは恐ろしい感情である。身を焦がして自分を滅ぼす可能性すらある。年をとって認知症になり怒りにさいなまれていることを考えるだけでも「かわいそうで哀れ」である。自分も近い将来抑肝散にお世話なりたい。認知症でなくても使っていいのだから。

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