漢方を科学する(葛根湯編)

漢方を科学する(葛根湯編)

葛根湯医者

古典落語に葛根湯医者というこのがあるが、「先生、頭痛いんだ」「「ああ、頭痛だな葛根湯をお上がり」、「先生。腹が痛いんだが」「ああ、腹痛なら葛根湯お上がり」「そちらのお方は」「いえ私は付き添いに来ただけで….」「まあいいから葛根湯をお上がり」というくだりである。なんでもかんでも葛根湯を飲ませるやぶ医者の話である。「いやちょっと待てよ、本当にやぶ医者だったの」という疑問がわく。
万病一毒説
1702年生まれの吉益東洞は陰陽五行説に基づく医学を排し、病気の内的原因を追及しすべての病は一つの内因に原因しているとして「万病一毒説」を唱えている。当時の慢性病で最も恐れられていたのは「梅毒」であり一毒とはこの梅毒のことを指しており、皮膚疾患、鼻部欠損、関節炎、発熱などがほとんどすべて梅毒由来のものであるとした。当時は治療に有機水銀を使用して、治ればよいが水銀中毒で死亡するのもやむなしという何気に恐ろしいものであった。この時代の病がすべて梅毒であったわけではなかろうが、やはり肉食や卵などを食べない時代であるため低栄養状態が予想され、タンパク不足による免疫能の低下でおこる急性疾患はほとんど風邪や下痢などの感染症であったと推測される。
古代の感染症対策
葛根湯は経絡の太陽膀胱経に作用するといわれている。太陽膀胱経とは顔、頭、体幹後面から下肢後面の正中線に走る。風邪や疫病はのどや胃や腸の感染症であるため葛根湯が有効なであったのだろう。当院で葛根湯を内服してもらうと腰や頸部後面が「少し暖かくなる」といわれる方が多い。葛根湯の作用とは経絡の血流を増加させることのようだ。抗生物質や抗ウイルス剤などのない時代は体内に入った細菌やウイルスを駆逐するためには自分自身の免疫力に頼らざるえない。
元来私たちの体温は36.5℃前後であるが、免疫を含め体内の酵素活性などを高めるには38℃以上の方が有利にできている。免疫という観点からみればいつもは慣らし運転で、風邪を引いたときに38℃以上の発熱は本気の免疫駆動ということになる。葛根湯で太陽膀胱経が暖かくなるのは自分自身の免疫良好になっている証拠である。このように考えてくると「葛根湯医者」はあながちやぶ医者とも言えなくなる。
しかし待てよ!! 葛根湯は実証(栄養状態が良くて体格が良い人)の漢方ではないか! 古代は実証の人ばかりだったのかなー? 次回はこの実証、虚証について科学してみたいと思います。
漢方を科学する(葛根湯2)
葛根湯医者:「てやんでー、てやんでー、こちとら葛根湯医者でえー、どちら様もおいらにかかれば何でもなおっちまうよ」
病人:「ごほん、ごほん、私はもう10日も何も食べてなくて体は痩せてしまっているが、こんな私でも葛根湯を飲んでいいのかい」
葛根湯医者:「うーん、、、、、何とかするからまずは葛根湯を飲んでみな」
てな会話があったかどうかはわからないが、元来葛根湯は実証(栄養状態が良くて体格がいい人)の漢方である。上記の様な虚証(栄養状態が悪く痩せている人)にはたして飲ませてよかったのかなーという疑問がわく。
虚実を科学する
虚証、実証の区別を簡単に述べると虚証はタイプとして痩せている女性で胃腸が弱く色も白く元気がない方、実証はがっちりした男性で胃腸が強く色黒で元気がある方を想像してください。
体の中身を科学してみると虚証は女性が主であり生理による鉄不足とたんぱく不足があるため、冷えが、低たんぱく血症のため循環血液量は少なくなる。その上胃腸が弱ければさらに低たんぱくは進み、筋肉の発達も悪くなる。そのため免疫力は低下して感染症にかかる頻度は高いことが予想される。それに対して実証は男性が主であるため生理とは無縁で貧血もなく胃腸は強くたんぱくの摂取は多く循環血液量も多く、筋肉の発達は良い。免疫力は高いががんばりがきくため無理をして、やはり感染症にかかることが多かったであろう。
麻黄
このような状態で葛根湯が実証に適応がある理由として、葛根湯に含まれる麻黄があげられる。麻黄は元来交感神経興奮剤として知られており、内服すると心拍数をあげ心臓の収縮力をあげ体温上げて、免疫力を上げることが知られている。循環血液量が多く心臓の発達が良い実証には確かに良く効くことが予想されるが、その逆の虚証には葛根湯投与はいかがであったろうか。2つの可能性が予想される。
葛根湯医者の選択
1つの可能性は体が弱っている状態の虚証は弱っている心臓に鞭打ち鼓動をはやめ「ドキドキ」しながら体温をあげる。このことはただでさえ循環血液量が少ない状態を追い込みみ結果として脱水になり最悪な状態になることである。
もう一つの可能性は賢い葛根湯医者は病人の虚実の程度を推し量り、麻黄の量をさじ加減する。さじ加減は虚証であれば少なくし、実証であれば多くするといった具合だ。そして他の生薬(漢方の中にいれる薬草の種類)で弱点を補うことだ。例えば心臓の収縮力が弱いと判断すれば附子(無毒化したトリカブト)を追加するといった具合だ。この方法なら葛根湯を虚実関係なく処方できる。たぶんこちらの賢い選択を古代の漢方医はしていただろう。
葛根湯はやめられない
葛根湯は内服すると腰、頸部や肩や鼻がすっきりするが、私も鼻づまりがあると葛根湯を常用する。妙にすっきりするのだ。伝え聞くところによると大塚敬節先生(1900年ー1980年、有名な漢方医)は葛根湯を好み常用していたらしい。最後は脳出血で亡くなっているが葛根湯の常用が原因か?「しかしまてよ、80歳まで生きているんだよ、まあいいか、やっぱり葛根湯はやめられない。」

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