尿酸の持つ意味(ビタミンCとの関連から)
尿酸といえば「痛風」を思い浮かべる方がほとんどでしょう。「痛風は足の親指の付け根におこり真っ赤に腫れてとても痛い病気であり、お酒ではビールが悪く肉や卵を食べると悪くなる。」といった認識がほとんどでしょう。しかし尿酸の本当の姿はあなたの体を守る「天使」の様な存在であるといったら信じますか?
このことを説明するにはまずビタミンCのお話しからしなければいけないでしょう。
今から約500年前、遠洋航海の幕開けの時代バスコダガマはインド航路を開きポルトガルに莫大な繁栄をもたらした。しかし1498年の航海では163人の船員のうち実に100人ものが貧血、衰弱、異常出血などにて死亡している。1519年マゼランの世界一周では192人のうち98人の船員が死亡している。この大量死亡の原因は後でわかったことだが、ビタミンC不足による壊血病であった。この時壊血病の原因がビタミンCの欠乏とは解らず、血を抜いたりするなどの様々な治療法が試されましたが、1753年にイギリスのジェームズ・リンドが壊血病に「レモン」、「ライム」などの柑橘系が効果的だと発表したのです。しかし当初は中々受け入れられず実際に認められだしたのは40年後のことです。そしてビタミンCが壊血病の原因であるとわかったのは実に400年後の1932年のことでした。
ビタミンCは私たち人類、高等な霊長類、モルモットなどは合成はできないが、マウス、犬、ウサギなどは自前で合成ができる。元来サルなどの霊長類も2500万年前まではビタミンC合成ができていた。しかし柑橘系などの豊富な森林に住みはじめて、容易にビタミンCを摂取することで次第にその合成の遺伝子の欠損の種族が残ってきたようだ。しかし人類に進化して平原に住みはじめるともはや今までのようにビタミンCの摂取は容易ではなくなった。そこで登場したのが実は「尿酸」である。

世の中で日陰者呼ばわりされ、病院では血液検査で少しでも尿酸が上昇すると「これは痛風や動脈硬化の原因になるため下げなければいけません」と言われ尿酸の合成阻害剤や排泄促進剤をのまされるのが落ちである。しかしその素顔はいささか異なるものである。
元来尿酸は非常に強い抗酸化力をもっており、その力はビタミンCの約6倍に相当する。私たちは酸素を吸わないと生命を維持できないが100の酸素を吸えばそのうち2-3%は必ず活性酸素になる。この活性酸素は生命維持に必要な側面もあるが過剰になるとDNAや細胞膜を傷つけはじめる。そしてがんを含め病気の状態にはこの活性酸素が密接に関与している。そして究極にはDNA損傷を起こして「がん」の発症になるのだ。

尿酸が高くて薬剤投与をされている方はこんな話を聞くと自分は薬剤を飲まなくてもいいのだろうかという疑問がわく。現実的には尿酸は血中濃度が7mg/dlを超えると過飽和といわれる状態になり、関節軟骨や血管に沈着する。これを目の敵にして下げることばかり考えているととんだことになる。しかしやはり高すぎるのは問題である。そこで尿酸代謝というものを考えてみる。

尿酸の上流を眺めてみるとDNA,RNAなどの核酸の成分であるプリン塩基である。このプリン塩基が多く代謝され下流に流されると尿酸は増えるということになる。そこでプリン体の多い食材を避けることが医療機関でいわれ肉や卵、ホルモンなどの食材は避けることになる。しかし尿酸代謝は「飢餓」つまり何も食べないと著しく高くなる。これはどういうわけであろうか。みんなが食物由来の尿酸のことばかりに気を取られているが実は自分たちの体細胞由来の尿酸のことを忘れているようだ。体細胞は60兆個あるのだが毎日数千億個はアポトーシスなどによって分解される。そしてその一部が体細胞の材料として利用され、一部が体外に排泄される。よって「飢餓」などの状態では体細胞の分解が著しく促進して尿酸の上昇となる。この点に尿酸のコントロールの秘密が隠されている。つまり体細胞の分解を促進することをできるだけ少なくすることが思いがけなく尿酸値を低下させることにつながる。
先ほど述べたように尿酸には強い抗酸化作用があり私たちの体を守っていることを考えれば、血中濃度が上がれば下げるといった短絡的なことでいいのかどうかを考えてみることが大切である。体細胞の分解が促進している様な状況は脱水であるとか、過激な運動であるとか、お酒の飲みすぎであるなど体の中で「活性酸素」が大量に発生していると思われる。だとすればこの時に生じる「尿酸」は決して悪者ではなく私たちの体をこの活性酸素から守っていると推測されるのだ。

ここで声を大にして言いたい。なぜ尿酸が上がっているのかを自分で考えてみることが大切だ。まだまだ尿酸に関しても多くのことを伝えたいが残りは中村博整形外科医院でお話ししましょう。

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